脳老化・認知障害の早期診断・経時的評価のための総合システムの開発
研究概要
超高齢化社会の重要な課題の1つは認知症対策である。認知症を早期にあるいは認知症前段階(軽度認知障害あるいは発症前)で診断することが認知症予防のためには必要である。さらに、
認知症の早期診断および認知症予防は、介護費用や介護者の時間的拘束を軽減し、医療費削減および社会的経済効果を生み出す。
この研究は、MEGを応用した解析法の開発を中心に、認知機能検査、脳画像検査等も取り入れ、
脳老化・認知障害の経時的評価および認知症の早期診断を行うための新たな総合システムの開発を目的とする。脳機能が発達したのち、その機能が低下してくる過程を評価することは、脳の老化メカニズムを解明する上で重要であるのみでなく、認知症早期診断に直結する。
本研究は、以下のプロジェクトに基づき研究を遂行している。
A. 研究基盤の構築:モデル地域住民を対象とした脳機能の縦断的観察研究[地域脳健診(なか
じまプロジェクト)]
研究の基盤となる疫学的データの集積(なかじまコホート)、および総合システムの開発のための被験者の抽出を行う。
B. 脳老化・認知障害の早期診断・経時的評価のための総合システムの開発
上記の地域研究基盤(なかじまコホート)を用い、MEG、認知機能テスト、MRIなどの多方面から、脳老化・認知障害に関わる脳機能変化を評価し、MEGを含む総合システムの開発を行う。
研究成果
A. 研究基盤の構築:モデル地域住民を対象とした脳機能の縦断的観察研究[地域脳健診(なかじまプロジェクト)]
脳健診(もの忘れ健診)を行い、認知症の有病率や発症率を把握するとともに、認知症早期診断のための手法を確立させるための基盤となるデータを集積し、脳健診のモデルとして、他地域でも汎用される工夫を行った。また、最新の技術や手法も取り入れ、先駆的脳健診技術の有用性を検討している。
中島町の人口総計(60歳以上)は2,913名(男性;1,232名 女性;1,681名)(平成21年3 月末時点)である。認知症有病率算出のために、4 年間で脳健診受診率(受診者/人口)75%を目標としてい
る。
もの忘れ健診評価項目としては、
1 )アンケートによる既往歴・生活歴等の聴取、
2 )血液検査(遺伝子検査含む)、
3 )タッチパネル式検査、
4 )MMSE、HDS-R 、
5 )CDRを用いている。
脳健診受診者より抽出された住民に対し、MEG検査、MRI検査、神経心理検査を行っている。また、
認知症診断が必要な住民に対しては、MRI、SPECT、神経心理検査(WAIS-R,WMS-R)も行っ
ている。
21年度のもの忘れ健診回数は全26回(H21年6 月初旬〜11月中旬)行った。21年度のもの忘れ健診のデータを解析した結果は以下の通りである。
<H21年度もの忘れ健診(26回終了時点)のまとめ>
受診者数 352名(男性;109名 女性;243名)
平均年齢 73.7(±6.9)歳
認知機能検査の成績は、80歳までは比較的保たれる傾向があるが、80歳を超えると、健常者においても低下する。CDRによる認知症の評価においては、80歳以上で認知症の頻度が増加するが、認知症前段階の軽度認知機能障害は、65歳以降からこの範疇に入る人が増加し始めることが明らかとなった。受診者のうちCDR 0.5の占める割合は17.6%であった。
|

図1 H21年度受診者の認知機能(CDR判定による頻度および年齢分布)
|
B.脳老化・認知障害の早期診断・経時的評価のための総合システムの開発:
地域研究基盤(なかじまコホート)を用い、MEG、認知機能テスト、MRIを用いて脳老化・認知障害に関わる経時的脳機能変化を評価し、MEGを中心とした総合システムの開発を行っている。
MEG検査を用いた認知症評価の手法として、前駆的研究を行ったところ、視覚性記憶とMEGから得られたデータとの間に相関が認められた(投稿準備中)。これらのデータを参考に、MEG検査における脳機能を評価する検査課題のプログラムの作成を平成21年11月までに終了した。もの忘れ健診のデータをもとに住民を抽出し、被験者の協力
と同意を得た上でMEG検査を施行、平成21年度は18名に対し検査を行った。今後、被験者の数を増やすとともに、経時的変化のデータも採取してゆく計画である。 |
安静自発活動……6分
呼称課題…………5分
視覚刺激…………12分
安静自発活動……2分 計25分
図2 MEG検査課題プログラム |
事業化への展望
1) 脳健診の事業化:
高齢化モデル地域における本研究から有用な脳健診システムを確立する.国レベルでの高齢化社会対策の1つとして脳健診が事業化され、一般健康診断にリンクする形での実施が推進される。
2 ) 認知症早期診断機器としてのMEG検査の事業化:
患者への時間的、身体的負担が軽く、施行が容易なMEGは、認知症早期診断機器としての有用性が証明されれば、今後の普及が見込まれる。地域内企業との共同研究により、MEGを利用した認知症早期診断システムの事業化を促進する。
3 ) 改良型タッチパネル:
簡易的に認知症あるいは軽度認知障害を判別する機器としてタッチパネルは有用である。我々の開発したシステムは、認知症、軽度認知障害および健常者から得られたデータに基づいて開発されており、総合的認知症診断機器の一つとして他の同様なシステムから差別化される。