文部科学省 地域イノベーション戦略支援プログラム 富山・石川地域
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ほくりく健康創造クラスター
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研究開発
個の免疫医療システムの開発
研究代表 富山大学大学院医学薬学研究部免疫学 教授 村口 篤
U R L http://www.med.u-toyama.ac.jp/immuno/index.html
参画機関 富山県工業技術センター、エスシーワールド株式会社、静岡県立静岡がんセンター研究所、学校法人自治医科大学、独立行政法人国際医療研究セ ンター、学校法人兵庫医科大学、アメリカ合衆国国立衛生研究所(特別ア ドバイザー)
研究概要
  本研究は個々の患者の免疫機能の診断や患者の免疫力を増幅させ治癒力を高めることで「個の免疫医療」を推進していくために、 個々の患者血液あるいは病変部のウイルスやがんなどに特異的なリンパ球およびその抗原受容体を迅速に同定するシステムを開発し、その臨床応用を推進 することを目的とする。
  これまでに、1)細胞チップ上に45,000個から234,000個のリンパ球を配置し、抗原に応答しサイトカインを産生する1個のリンパ球を、全体で6 時間程度で同定で きるシステムを開発することができた。 2 )我々が開発した単一細胞5’-RACE法および相同組換え法を利用することにより2 週間以内に抗原受容体遺伝子を取得し、その機能を解析できるシステムを開発することができた。  3 )磁気チップおよび磁気ビーズを用いて能動的に細胞をマイクロウェルに導入するシステムを開発することで、チップ上のウェルの数と同じ細胞を用いた時、50%以上の細胞をウェルに導入できるようになった。本研究成果はがんや感染症などの治療において、患者個人個人に最適な治療法を提供するための基盤技術を提供し、個の免疫医療を大きく推進すると期待される。また、従来から行われて いる細胞療法事業に利用され世界展開されることにより、市場を大幅に拡大すると期待される。
研究成果
 1.抗原特異的リンパ球および抗原受容体迅速同定・取得法の開発
 我々は、抗原特異的抗体を分泌しているBリンパ球を細胞チップを用いて検出する方法としてISAAC法を開発した(Nat Med, 2009)。 この方法を応用し、新たにサイトカインの分泌を検出できるチップを開発した。このチップを用い、チップ上でTリンパ球を抗原の存在 下4 時間培養したところ抗原特異的なサイトカイン産生を単一細胞レベルで検出することができた(下図)。検出したTリンパ球をマイ クロウェルからキャピラリーを用いて回収し、単一細胞5’-RACE法によりT細胞抗原受容体(TCR)遺伝子を増幅し、遺伝子相同組換え法を用いて発現ベクターに導入し、それをTCRが欠損したT細胞株に導入させ、発現させた。そのT細胞株を抗原提示細胞と培養することにより、活性化マーカーの発現およびサイトカインの分泌を測定することにより取得したTCRの抗原特異性を解析するシステムを構築した。 これにより、細胞チップ上での抗原特異的Tリンパ球の検出から、TCRの取得およびその機能解析までを2 週間以内で行えるシステムを構築することができた。従来法では、抗原特異的TCR遺伝子を取得するまで約半年かかるのに較べると期間的に約1/10に短縮され、 個の免疫医療への応用を十分視野に入れることが可能になった。現在、静岡がんセンター等と臨床応用へ向けて共同研究を展開し、 また取得したTCRを用いた機能的可溶性TCRの開発を行っている。

 2.高機能チップの開発(細胞充填の効率化)
  従来細胞チップのマイクロウェルには重力による自然沈降により細胞を導入しており、チップへの細胞充填率を高めるには細胞密度を高くしなければならず、またウェルに入らなかった細胞は回収して再度使用するがロスが大きく、全体の細胞に対する解析できる細胞の割合(細胞利用率)が 20%弱であることから、患者の少量のリンパ球を用いた解析の障害となっていた。我々は富山県工業技術センターおよびエスシーワールド株式会社と共同で ウェルの底に磁力線を集中させるための金属盤をメッキしたマイクロウェルアレイを試作した。解析に用いるリンパ球サブセットに特異的な抗体をカップリングした磁気ビーズ結合させ、磁気チップにアレイすることで、細胞が能動的にウェル中に誘引され、細胞のチップへの添加がより迅速にまた効率よく行えるようになった。細胞利用率は50%以上に上昇することができ、今後さらに改善されると期待される。これにより細胞チップを用いてごく少数の細胞を解析することが可能になり、細胞チップの臨床への応用により拍車がかかると期待される。



事業化への展望
 細胞チップを用いた抗原特異的抗体取得の系についてはエスシーワールド株式会社への技術移転が修了し、2009年には韓国企業からの受注で高機能インフルエンザ抗体をインフルエンザから回復したボランティアのリンパ球から取得することに成功し、現在韓国・フランスを初めとする海外の企業を中心に事業を展開しつつある。また、抗原特異的Tリンパ球は感染症・がん等の治療で大きな位置を占めつつあり、それを事業化する企業も出現している。 我々の技術は免疫医療を個々の患者に対 応したよりこまやかな治療へと展開させることを可能にする基盤技術である。今後、個の医療をサポートする事業が展開していくことが期待され、 我々の技術はその基盤となると期待される。


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一般財団法人 北陸産業活性化センター